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ココロのハナシ~カリフォルニア州公認心理カウンセラーから学ぶ正しい心理学

荒川龍也

荒川龍也

カテゴリー:健康
2790 Skypark Dr. Suite 102 Torrance CA 90505
TEL: 424-254-8823

心の病は生活習慣病などではない! プレジデントの記事から見る日本の精神医療の著しい遅れ

こんにちは、カリフォルニア州公認心理カウンセラーの荒川龍也です。

 

日本の精神医療はその理解・知識・システムなど全ての面において米国と比べて非常に遅れており、その遅れ具合は深刻です。それが原因で救われるべき人が救われないだけではなく、間違った情報や誤解されやすい情報が、あたかも役に立つ正確な情報かのようにネット上で氾濫してしまっています。今回はこちらの記事に対しての私の反応をシェアしたいと思います。

 

ここでインタビューされている教授は、「心の不調はストレスから引き起こされる」(引用)と決めつけ、「食事・運動・睡眠がしっかりとれていれば、ストレスを感じても跳ね返すことができます」(引用)と断言してしまっています。最後に筆者は、「心の病気も生活習慣病の一つなのだという」(引用)と言及してしまっています。その後この記事は、どういう食事を取れば心の健康を保てるかという論調になります。

 

もちろん食事とメンタルヘルスの関係は切っても切れないもので、どれだけ正しい精神医療を受けていたとしても、不健康な食事をしていれば心の病が治らない可能性は確かにあります。例えば、カフェインを取りすぎているクライアントさんが、不安・心配をコントロールできず不安障害がなかなか治らないというケースも稀にあります。また、この記事はインタビューされた教授の発言を元に書かれたようなので、著者の表現の仕方にも問題があったかもしれません。だからといって食事を整える=心の調子が良くなると断言できるほど心は簡単にできていません。ではこの記事にはどのような誤解を招きやすい情報が載せられているのか、一つずつ見ていきましょう。

 

「心の不調=ストレスが原因」という方程式の問題点

 

まず初めに、一番大事な事として「心の不調はストレス」が原因で起こるという方程式についてです。残念ながら、これそのものが日本の精神医療の理解・知識・システムなど全ての面において米国と比べて非常に遅れている証明です。

 

確かに過度なストレス自体は心の不調や心の病の原因になり得ますが、ほとんど全ての場合においてストレスだけが原因ではありません。幼少期のトラウマ、環境の変化(引っ越しや海外転勤など)、考え方の癖、いじめ、事故、遺伝(家族にうつ病経験者がいる場合、うつ病になりやすくなります)などなど、ストレスとは全く関係の無いところで様々なファクターが複合して心の不調を引き起こす事が事実なので、ストレスを主な原因にする事は非常に危険です。なぜならこれら様々なファクターを度外視してしまう事になり、なぜ心の不調が発生しているのかをさらに見えにくくし、結果として心の不調を治せない事になります。

 

この、「心の不調=ストレスが原因」という方程式は、なぜか日本では常識化してしまい、何かにつけて「〇〇はストレスがかかるから除去した方が良い」という発想が生まれてしまいがちですが、これは事実ではありません。

 

では、どうしても働きたい会社があってそこで働くためには面接を受けなくてはいけないとします。きっとものすごいストレスを感じる事でしょう。ではストレスを感じるから、面接をやめますか?その場合、この会社で働くことはできないでしょう。人間とは何をしていても、大なり小なりストレスは感じるものです。問題はそのストレスの解消をしようとするのではなく、どう共存するかなのです。

 

詳細は、拙著コラム、ストレスは「解消」するものではなく「共存」するを御一読下さい。

 

食事・運動・睡眠がしっかりできていても心の不調にはなり得る

 

また、食事・運動・睡眠がしっかりしていればストレスを跳ね返すことができ、心の不調を防げるという論調も、精神医療の遅れを如実に表しています。前途したように、心の不調はストレスだけが原因でないため、どれだけ生活習慣をしっかり保っていたとしても、前途した様々なファクターが原因となり、心の不調は起こり得るのです。

 

日本には、働かされ過ぎる状況や受験勉強など、我々アメリカの心の専門家から見れば「そのような環境に居れば心の病になって当然」という状況は多々あります。しかし、このような状況ですらも、「環境のせいにしてはいけない。どれだけ自分が辛くても、どれだけ過酷な状況下にいようとも、自分の心の調子は自分で管理できなければいけない」という論調が適用される事が多々あります。残念ながらこの論調が日本では常識になってしまっているのです。この「生活習慣をしっかり保っていれば心の不調にならない」というのも、この論調から派生したかのように、環境からくる問題を度外視しており、この論調自体がまた日本文化の悪しき側面であり、精神医療の遅れによる残念な結果といえるでしょう。

 

心の病は生活習慣病ではない

 

この記事の著者は心の病は生活習慣病と断言していますが、上記二点において心の病や不調は決して生活習慣病ではない事がわかって頂けたかと思います。もちろん、生活を整える事は心の調子を整える上でも、心の病の治療をする上でも非常に大事です。それと同時に、ストレスだけを原因とし、他の様々なファクターを度外視してしまう事は、心の不調を整えるどころか、悪化させかねません。骨が折れれば整形外科に診てもらうように、心の不調の場合は心理カウンセラーに診てもらい、場合によっては心理カウンセリングを受ける事が心の不調を治すために必要なのです。

 

 

以上、正しい知識を得て頂ければ幸いです。

 

 

日本のメンタルヘルス医療の遅れに関してはこちらをご覧ください。

 

荒川龍也, M.S., LMFT #82425(カリフォルニア州公認心理カウンセラー)

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